「現在のような生産性の向上が将来もつづくならば、2000年には平均労働時間が週16時間になるだろう。人々は余暇を過ごす時間が大幅に増え、生活の質は大幅に向上するであろう」
ちなみに週16時間とは、週休2日で1日3時間程度の労働である。
2000年になり、当時の予想はまったく的外れであったことが証明された。現在先進各国の平均労働時間は週40~45時間程度であり、労働者保護の精神が強いフランスでも週35時間労働である。予想どおりに生産性は飛躍的に向上したが、同時に人々はより熱心に働くようになった。
幸福度について、衝撃的な調査結果がある。ワールド・データベース・オブ・ハピネスによると、日本人の幸福度は、調査が始まった1958年以来ほとんど変化していない。つまり1980年代後半のバブル経済絶頂期の日本人が世界を買いあさっていた時代、株価や地価の高騰で多くの人々の資産価値が上昇し家計の収入も増え消費も拡大し、失業率も2%前後と非常に低く、貧富の格差も世界で2番目に小さかった、そんな時代でも、日本人の幸福度は現在と変わらなかったのである。
もちろん、近年の大きな社会問題となっている年金や格差のことなど、当時は話題にもあがっていない。ちなみに1958年から日本のひとり当たりGDP(国内総生産)は、約6倍になっている。しかし幸福度は、ここ50年以上も頭打ちなのである。この事実は、この先いくら経済発展をしても、日本人の幸福度が変わらないことを示唆している。
ポーランドの社会学者ジグモンド・バウマンは、物質的な豊かさと幸福の関係について、一定水準を超えるとGDPと幸福度の間に関係が見られなくなると述べている。
実際に世界全体を見ると、年間所得が1万ドル(約100万円)程度のレベルに達するまでは、所得の上昇と幸福度の上昇が相関している。しかしそれを超えると、所得の伸びと幸福度はほぼ無関係となっている。
発展途上国にとって経済発展は、国民の富を増やすだけでなく幸福度も増やすのだから、国家の最重要課題となることは理にかなっている。しかし先進国にとって、経済の繁栄が直接に幸福度の上昇へと結びつかない。
ただし、失業率に関しては無視できない事実がある。失業をすることは、一般的に個人の幸福度を下げる。
社会福祉の充実しているヨーロッパでも、長期の失業率が高いポルトガル、ギリシャ、フランス、イタリアは、幸福度が他のヨーロッパ諸国と比べて低い傾向がある。これらの国々は、ギリシャを除くとカトリック教徒が大多数をしめるラテン国家である。
その一方で、同じカトリック教徒が大部分をしめる中南米のラテンアメリカでは、ほとんどの出業率が10%前後と高く、経済的にも平均所得が1万ドルに満たない国がほとんどであるのにもかかわらず、幸福度は比較的に高い。ラテンアメリカだけは、例外のようである。
コロンビアやブラジルの失業率はそれぞれ12%と8%であり、年間平均所得は共に1万ドルに満たない。しかし幸福度においては、コロンビアはワールド・バリュー・サーベイでは97国中3位、ワールド・データベース・オブ・ハピネスでは、145国中4位、レスター大学の調査では、178国中32位である。またブラジルの幸福度は、ワールド・バリュー・サーベイで97国中29位、ワールド・データベース・オブ・ハピネスでは145国中16位、レスター大学の調査では、178国中81位となっている。
つまりコロンビアやブラジルは失業率が高く、所得もそれほど高くないが、幸福度は日本よりも断然高く、世界的に見ても上位に位置している。
同じレベルの年間平均所得であるコスタリカの幸福度はワールド・バリュー・サーベイで145国中15位、レスター大学の調査では178国中16位と欧米諸国と肩を並べているが、失業率は5.6%と比較的低い。そこで、ブラジルやコロンビアの失業率が現在よりも低下すれば、幸福度がさらに上昇するのかもしれない。
長年景気後退している日本の失業率は、2010年7月現在で5.3%である。これは、世界的に見ても低いレベルにある。したがって、日本の幸福度が低い理由は、失業率の問題ではない。前述したが、バブル期の失業率は2%を切っていたのにもかかわらず、日本の幸福度は現在と変わっていないからだ。
日本よりも高失業率で貧しい国よりも、日本の幸福度は低い。そこで日本の失業率が悪化すれば、さらに日本人の幸福度が下がる可能性はある。しかし失業率を低く保つために経済発展しつづけるだけでは、今後も日本人の幸福度が上がらない可能性は非常に高いということだ。
では、どうすれば日本の幸福度が上がるのか。
それは、次の投稿からいろいろと検討していきたい。
次回が楽しみです!
返信削除魂の叫びの続編もお願いします!
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