和歌山県太地町でのイルカ漁ドキュメンタリー『ザ・コーヴ』(ザ・コーブ:The Cove)を観た。
率直な感想は、マイケル・ムーア監督の作品(『ボウリング・フォー・コロンバイン』や『華氏911』)を観た後と同じだった。つまりエンターテイメント性は非常に高いが、あまりにも一方的かつ稚拙なメッセージに、辟易したということだ。
ただし、この映画を上映禁止にさせようとする人たちは、この映画と同様、非常に低レベルの主張と行動であることを自覚すべきだろう。現在各地で行われている妨害に屈することなく、一日でも早く一般公開されることを望みたい。
一部の暴力的な行為に屈することは、その行為を肯定することと等しくなってしまう。
配給会社や映画館は、もっと勇気をもって上映してほしい。
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まず、世間で内容について誤解されている点が一部あった。
地元の漁師を「マフィア」と呼んでいるとの批判があったが、これは明らかな誤解である。実際のナレーションは以下のとおり。
「我々が最初に日本に来たとき、誰に尾行されているのか、まったく分わからなかった。(中略)それが捕鯨者なのか、それがヤクザ、つまり日本のマフィアなのか、まったく分からなかった」
そしてすぐ後に、その正体が「警察署長」だと明かされる。
どこをどう解釈しても、地元漁師を「マフィア」などとは呼んではいない。批判している人は映画を観ていないか、もしくは字幕が間違っていたかのどちらかだろう。
さて、この映画で批判すべき箇所は沢山あるので、まずはじめに、評価できる点をあげてみたい。
国立水俣病総合研究センターが指摘しているように、太地町住民の毛髪に含まれるメチル水銀は、国内平均の5倍以上が検出された。
早い話、なるべくならイルカ肉は食べないほうがいいということだ。妊婦や幼児にいたっては、絶対にやめたほうがいい。ただし妊婦は、マグロ等を食べることなどすでにタブーになっているので、わざわざイルカを食べる人はいないでしょう。
2 内容とそこからくるメッセージは別として、ストーリーの構成と編集、そして映像はなかなかよくできている。
つまり、娯楽としての完成度は高い。
では、ここからは批判を。
1 イルカ漁反対の動機は理解できるが(賛成はできない)、彼らのやり方では絶対に目標は達せないだろう。
これは、妊娠中絶に反対の立場をとる人たちが、合法的に中絶をしている医者を攻撃するのと同じ方法である。(実際にアメリカでは、中絶をしている医師が殺害されている)
たとえ太地町がイルカ漁をやめても、世界中で「イルカショー」などの需要があるかぎり、誰かが、どこかでイルカ漁をするのは目に見えている。実際に日本以外でも、ソロモン諸島やフェロー諸島、そしてペルーで現在でも行われている。ショー用のイルカは一匹1,300万円程度で売られているので、新規参入してくる人はいくらでもいるでしょう。そこで、本気でイルカの取引をやめさせたいならば、世界中でイルカショーを禁止にしないと意味がない。
もっとも、「なぜイルカだけ?」という疑問も出てくるので、ついでに世界中の水族館と動物園も禁止しないと、一貫した主張になりませんね。
2 イルカの知的レベルが高いから、殺すのをやめようという主張の危険さ。
この議論を突き詰めていくと、知的レベルの低い生き物は生存する価値がない、という発想になってしまう。たとえば、ナチスはかつて知的障害者に対して強制的に不妊手術を施していた。そしてスウェーデンでも、70年代まで同じことが行われていた。これは優生学とよばれる。ちなみに日本でも、96年まで「優生保護法」のもとに公式にカウントされているだけで16,520件の強制的な不妊手術が行われている。(49年から96年まで)
もしも、知的レベルが低い人間が生きる価値がないのならば、あんな映画を作る人たちは真っ先に抹殺されてしまうでしょう。
3 イルカは絶滅に瀕してはいない。
絶滅の危機がある種を保護する義務について、異論がある人はまずいないだろう。(異論があるならば、是非とも知りたい)しかしそれ以外の理由、たとえば「可愛いから」という理由では、イルカ漁反対の説得力はない。私は個人的にイルカを食べたいとは思わないが、イルカを食べたいと思う人の自由を奪うつもりはない。
4 太地町で年間23,000頭のイルカが殺されているという主張。
この数字は誇張されている可能性が高い。多く見積もっても、2,000頭程度なのでは?
もっと細かい部分を見ていくと突っ込みどころ満載の映画だが、この映画を上映禁止させようとする動きには、絶対に賛成できない。たとえ反日と思われるような内容であったとしても、それを公の場所で議論できる環境こそが、健全な社会であると思う。
どんな批判であっても、批判する機会を奪おうとする姿勢は非常に危険である。多様な意見を寛容できるからこそ、自由な社会が保たれるのである。
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